数多くの音源やライブ映像を視聴して気づいたのは、当然のことなのだが、反戦を訴える同じ曲と言えども、歌手、演奏者、時代、具体的状況などにより、訴えかけたいもの、無意識に伝えてしまうものは異なるだろうということ。戦時の苦しさや悲惨さ、酷い状況への怒り、きっと状況を変えられるという希望、いつまでたっても状況を変えられない虚しさなどなど。また、受け手の思想、置かれている状況、性格などによって感じ取るものも微妙に異なるかもしれない。
クロノス・カルテットの「花はどこへ行った」を改めて聴いてみた。その音色、響き、トーン、テンポ、曲調から私に伝わってきたのは「戦争は愚かなことでしかないことに気づいて戦争を止めさせよう」というメッセージではなかった。「戦争は愚かしいことだと知りながら、戦争や戦争につながる事項を容認したり、それに加担する行為をしてしまったりするのはなぜだろう?同じことを繰り返さないために、その心理やカラクリに目を向けて学ぼう」という、静かだが真摯な訴えだった。
戦争をしたい人たちは確実に存在する。しかし、実はそのような人たちは少数派だ。大多数の人は本来は戦争を望んでいないにもかかわらず、戦争をしたい人たちやシステムに騙されてしまう。私はそう考える。
◆ クロノス・カルテット「花はどこへ行った」
Kronos Quartet - "Where Have All The Flowers Gone?" [Official Audio]2020年
( featuring Lee Knight, Sam Amidon, Aoife O’Donovan and Brian Carpenter)
アルバム紹介文に、松村洋さんは次のように書いていた。
「ロシアのウクライナ侵攻以降、日本では防衛費増額を叫ぶ声が大きくなった。クロノスの優しい演奏に包まれて、『いつになれば人々は学ぶのだろう?』という歌詞が切なく響く。ピートは、人々の覚醒を信じていたかもしれない。だが、たぶん人間は戦争をやめようとしない。いつまでも学ばない人間の愚かさを、しっかり見据えることこそ平和への第一歩ではないか。」
(つづく)